Spotlight on Sandro Russo NY Rising Star April, 2009 Vol. 001 優しい声で話すサンドロ・ルッソはNYRisingStarのアーサー・サトウと膝を交えて、急成長する彼のピアノキャリアについて 語った。ルッソ氏はこの6月にニューヨーク・アジアン・シンフォニー・オーケストラとの日本ツアーでベートーヴェンのピアノ 協奏曲「皇帝」を演奏することになっている。 AS:ニューヨーク市には何歳の時にいらしたのですか? SR:20代前半ですね・・・。9年間ここに住んでいます・・・こちらに来たのは22歳頃でした。 AS:大学院に行くためですか、それとも何らかの音楽教育を受けるため? SR:それが、私がニューヨークに来た時は特に決まった目的があったわけではないんです。個人指導か、ニューヨークにある 優れた教育機関で勉強を続ける気持ちでいました。それより、その土地のことを知り、新しい環境を探索してみたかったんで す。 AS:ニューヨーク市には世界的に認められた音楽コミュニティがあります。そういった音楽シーンに入っていこうとする部外 者として、あなたのニューヨーク市に対する認識がどのようなものだったか少しお話いただけますか?またそれは何年もの間に どんなふうに変わってきたのでしょう? SR:そうですね、その違いは、私がニューヨークに来る前は、人生のある時点でこちらに移住してきた偉大なアーティストた ちのことしか知らなかった、という事実にあると思います。つまり、ここにやってきたアーティストたちのことをことさらに思 い浮かべていたのでしょう。ラフマニノフや・・・ホロヴィッツのことです。いくつかの素晴らしい学校があって、そこから世 に送り出された偉大なアーティストたちのことを聞いていました。でもそれは、ここに住むことや探索することとはまったく違 ったことで・・・。 AS:ここに来て実際のことがわかったんですね。 SR:ええ、そしてまた、ここにずっと住んできた人々のことを知ることができるだけでなく、街全体が、音楽的なオーラや環 境に包まれて醸し出すとても興味深い、そしてなお非常に魅力的なものを本当に感じることができるでしょう。 AS:あなたが経験してきた、またこれから経験するであろう世界中の他の国際的な芸術のコミュニティとニューヨークのコミ ュニティとをどのように比較するのでしょう? SR:私はロンドンのようないくつかの大都市をよく知っています。私は1996年に英国王立音楽大学で学びました。実際のとこ ろ、よくわかりません。というのは、その頃、大都市には世界的に偉大なアーティストが住んでいましたから。このことが、そ ういった都市を素晴らしいものにしているんです。ニューヨークの長所のひとつは、それが驚くべき都市であり、偉大な歴史と 威厳を持っていることです・・・。おそらく、その偉大さの中に、音楽を生み出すことと重なるものがあるのでしょう。しかし それでも私は、それらの都市そのものより、そこに住んでいる人々が素晴らしいのだと思うんです。 AS:あなたは音楽一家に生まれたのですか? SR:ああ。ええっと、私は音楽的な家庭に生まれたわけではありません。でも、私の両親は、私に関係することを通じて、ク ラシック音楽の大きな支援者でした。家族にピアニストやプロの音楽家がいるかという意味では、私は音楽一家の出身ではあり ませんが、自分の祖先のことを考えると、わが家には常に音楽が広く培われてきました・・・実際、多くの家族がアマチュアの レベルで音楽を演奏しました。私の祖母は耳で覚えてピアノを弾きました。母方の祖母はバンドでクラリネットを演奏していま した。そして私の母はいつもピアノを学びたがっていました。その頃、偏狭なシチリアでは物流的な困難があって、ピアノを学 ぶのが難しかったんです。この母の願いは私の兄に受け継がれ、そして私にも。 AS:ああ、あなたにはピアノを弾くお兄さんもいらっしゃるんですね! SR:はい。私がピアノを演奏し始めるきっかけとなったのは兄なんです。私が4歳の時、兄が9歳でピアノのレッスンを受け始 めました。それで私も兄の後に続いたんです。 AS:ええ、私もそういったことがわかります。私は音楽家ですが、ヴァイオリンを弾く姉がいます。自然なことでし た・・・。いつ個人的にレッスンを始めたのですか? SR:それがおもしろいんです。私が4歳の時、教育を受けなくてもピアノが弾けたんです。実際に、兄が弾いていた曲を全部弾 くことができました。でも先生はいなかったんです。 AS:耳で覚えて弾いていたんですね。 SR:ええ、これは私の両親がいつも私に言うことなんですが、私は耳で覚えて弾いていただけなのに、楽譜がわかっていて、 ページをめくることができたと言うんです。このことを覚えてはいないのですが。どうやら私は自己流で楽譜を読んでいたんで すね・・・。 AS:でもあなたはそれに気づかなかった。 SR:まったく。 AS:それはすごいですね。 SR:覚えているのは、朝起きたら、私の希望は、私の最初は、ピアノのところに行ってピアノを弾くことでした。でも教育と いうことに関しては、若いピアニストとしては非常に乏しい教育しか受けられませんでした。というのも、また同じく、私の育 った町には立派な教育がなかったのです。6歳で、指導の経験のない音楽学校の学生のピアニストから学びました。それから8歳 になって、両親は、連弾曲などで少なくとも私に刺激を与えることのできる先生のところへ私を行かせることができました。そ れでも十代半ばまでは一般的な教育を受けていたんです。そうしてやっと、イタリア中でマスタークラスを開き、いろいろな学 校で教えていたコンサートピアニストから指導を受けました。 AS:ああ、わかりました。それであなたは徐々にその世界に入っていったわけですね。 SR:ええ、それはちょっとおかしなことだったと言いたいですね。特に現在では、子供が8歳から10歳になると音楽学校に行く ことを考えると。 AS:ジュリアード音楽院のプレカレッジプログラムのような。 SR:ええ。ですから、私は十代半ばまでピアノ演奏の偉大な芸術についてあまりよく知りませんでした。定期的に、そして月 に一度マスタークラスで教えてもらっていたモスクワ音楽院のロシア人ピアニストのおかげで・・・ボリス・ペトルシャンスキ ーという人ですが・・・彼はゲンリヒ・ネイガウスの最後の弟子のひとりで、その後レフ・ナウモフにも学んでいます。ナウモ フは偉大な弟子たちを教えた素晴らしい音楽家でもありました。 AS:ペトルシャンスキーがあなたの指導者だったのですか? SR:ええ、そうなんです。ピアニストとして、私は自分のことを、イタリアの音楽学校の出身というより、ロシアの音楽学校 の出身だと思っています。どう考えてみても。なぜなら、彼は、私にとても大きな影響を与えましたし、ロシアの音楽学校の、 つまり詩情を学ぶ学校の、最高レベルの音楽の最も大切な本質を伝えることのできる音楽家だったからです。そうして、その詩 情は私の音楽性とぴたりと合ったのです。 AS:私は音楽家として、それはあなたが鍵盤を前にして学ぶことではないのがよくわかります。しかしそれは、あなたの姿勢 であり、音楽的なアプローチです・・・しばらくして、すべてに染み渡り、あなたの人生のガイドとなる。 SR:でも、最初は私たちの気性は合わなかったんです。彼は私の気性の幅を広げようと刺激を与えてくれました・・・音楽に おける表現と感情ができるだけ広がるようにです。私はまったく彼の芸術に心酔しました。 AS:心酔すればするほど、それをより理解し、ますます学びたくなる。 SR:ええ、そして時間が経てば、そこから旅立つことができます。 AS:同感です。話題を変えましょう。あまり世に知られていない作曲家にあなたは興味があって、彼らに傾倒していることを 読みました。どのようにしてこのことに興味を持つようになったのですか? SR:ええっと、そうですね・・・、私はこれについてはどの先生からも教わりませんでした。(ふたりで笑う。)私は楽譜を 読むのが大好きで、楽譜を学ぶのに図書館で時間を過ごすのです。自分で演奏する前に、その音楽がどんなふうに書かれている のか、ということにも興味をかき立てられるんです・・・。いつも、できるだけ多くの音楽を研究しようとしてきました。ピア ニストとして、私の使命の一部として、どういうわけか他の作曲家のような運に恵まれない無名の作曲家の音楽に光を当てるこ とに、とても強い責任を感じるんです。ご存知のように、それは現代でも起こりますし、何百年も前にも起こっていました。何 らかの理由で、本来得られるべき正当な評価を得られなかった偉大な作品のことです。こんなことがあったでしょう。例えばホ ロヴィッツのように、アーティストが何か演奏したら、次の日にはみんなお店に行って楽譜を買おうとしました。そういった無 名の作品を演奏した偉大な人たちは、その作品をとても有名にすることができました。スーパースター・ミュージシャンによっ て有名にしてもらえなかった作品はたくさんあるのです。それでも、それらの楽曲は内容的に素晴らしい。偉大なものを生み出 す無名の作曲家もいれば、時には、ええっと、それほどでもないものを生む有名な作曲家もいます。 AS:(くすくす笑いながら)前者にも、後者にも、同感せざるを得ないですね。 SR:繰り返しになりますが、一度も演奏されない、誰にも知られていない、というような忘却の彼方から作品を救い出す一方 で、現代音楽の作曲家にも大変興味があります。特に、ピアニストでもある作曲家にです。というのは、そういった作曲家は、 ピアノのためにどのように作曲すれば良いのか、よくわかっているからです。それに、私は自分が、同じ現代に生きる伝統の一 部のように感じられるからです。現代に生きる伝統は、私にとってとても特別なものなんです。尊敬の念から、あるアーティス トの作品を演奏するのは、まったく自分が、あるひとつの世界の一部であるかのように感じます。 AS:わかります。間違いなく、クラシックの音楽家であることの、あるいは演奏家であることの素晴らしい部分のひとつです ね。芸術とそれを実践する血筋や歴史や伝統を担うものとして。私は「現代に生きる伝統」という言葉が気に入りました。 SR:しばしば私は、コンポーザーピアニストは、シューマンやショパンやリストなどの偉大なコンポーザーピアニストの素晴 らしい歴史的伝統をこれからも受け継いでいけるのだと感じます。私はまた、私の作曲家への興味は、一般的なプログラムを演 奏するのを退屈に思うことから生まれたのではないか・・・と感じています。私がまだイタリアの音楽学校にいた時、プロコフ ィエフのソナタやスクリャービンのソナタに触れずに、最後の年を迎える人がありました。そういうこともあって、これらのこ とは、私のちょっとした好奇心と興味と、音楽家としての私の使命の大きな原動力なんですね。 AS:今年の春の遅くに、NYASO(ニューヨーク・アジアン・シンフォニー・オーケストラ)とベートーヴェンの皇帝を共演す るため日本に行かれる予定ですね。昨年の10月には、偉大なピアニストでNYASOの役員でもあるワルター・ハウツィヒが NYASOとこの協奏曲を演奏して絶賛されました。ハウツィヒ氏に続いて同じオーケストラとこの作品を演奏する機会を得たこと について何か語っていただけますか? SR:そうですね、もちろんそれは大変に光栄なことです。まず第一に、私はその演奏会の場にいて、彼の演奏芸術に非常に感 化されました・・・。特に、昔の音楽学校に存在した何かを感じました。私がかつて心酔していたものですね。彼は素晴らしい 詩情を醸し出しました。その協奏曲で必ずしも聞けるとは限らないものをです。それで、ヤマダ氏がツアーで私に演奏するよう 依頼してくださった時は本当に光栄に感じました。誰しもその作品に対する考えがありますが、その演奏が感動を呼ぶ時間にな ると思えば素敵でしょう。 AS:これまでにアジアで演奏する機会はあったのですか? SR:いいえ、実際には。ですからこれが私のデビューということになります。 AS:最近あなたはDVDのプロジェクトに取り組んでいましたよね。もう少し詳しくお話いだたけますか? SR:ええ、これは本当に私にとって大変な驚きでした。私は実はベヒシュタインピアノの大ファンなんです。それでニューヨ ークにあるベヒシュタインの総支配人にコンサートをしたいという私の熱意を伝えたんです。総支配人はその楽器と私の特別な つながりにすぐ気づいてくださり、かつてフランツ・リストのものであった1862年製の歴史的なピアノを祝賀するガラ・コンサ ートに参加するよう招待してくれました。そのピアノはアメリカ中をツアーして回っていたんです。 AS:それで、そういった歴史的なピアノを演奏するきっかけとなったわけですね! SR:ええ、最初は何か軽い作品を演奏するよう求められたのですが、私はある時点で、このピアノは本当の声を、魂を持って いるのに気づきました。それでこの楽器で何らかのレパートリーを録音しようという考えに達したのです。もちろんそれは、こ の楽器の叙情的な部分を引き出すようなレパートリーでなくてはなりませんでした。それでリストや・・・シューベルト-リスト のアヴェ・マリア・・・そしてリストにまつわるいくらかの作品を・・・この楽器にはかなり困難なものも含め約1時間のプログ ラムを考えました。そしてこのピアノでそれらの作品を録音することに着手しました。それはとても素晴らしい体験で・・・先 ほど述べたように、このピアノは本当の声を持っていて、これまでこの楽器を演奏することほどうっとりと感じたことはありま せんでした。この楽器は、私がかつて経験したことのないような音の世界に私を引きずり込んだのです・・・。心を揺さぶられ るような何かです。そのDVDは間もなくリリースされると思います。 AS:ということは、これは人々にとって、特に歴史的ピアノの熱烈な愛好家にとってはめったにない機会ですね・・・。 SR:そしてリストの! AS:・・・リストを目の当たりにするという・・・それでこのビデオが収録されたのは、どこなんでしょう? SR:58番通りのベヒシュタイン・ピアノセンターでです。 AS:いつリリース予定なんでしょうか? SR:できれば2-3ヶ月の間には。このDVDは私のウェブサイトから直接か、またはベヒシュタインから、うまくいけばアマゾン からでも手に入るでしょう。 AS:とても素晴らしいプロジェクトですね。 (記事や翻訳の無断転載はご遠慮ください。) Original |